SEI:SIDE
「あ〜やっと4時間目終了。早く食堂行こうぜ折。」
「ちょ、待ってよ」
「さっさとしないと混むんだよ。それに腹減った。」
「授業の合間合間にお菓子食べてたのに?」
「菓子は別腹。」
「あっそ。」
晴の言うとおり食堂の食券販売機には既に20人程が列を作っていた。
こんなにも食堂は混むものなのか。
俺はどちらかというと食堂よりも購買派であるから
滅多に食堂には来ない。
1年の時に仲の良い友達に誘われて2、3回利用した程度だ。
なので食堂で昼食をとるのはかなり久々である。
「折、何食べる?」
「うーん・・・うどん?」
「そんなんでいいの?」
「晴は何食べんの?」
「俺?三色丼。」
「へえ・・・」
「今日の特別メニュー。日によって中華丼とかチャーハンとかもあるよ。」
「ふ〜ん・・・」
(たぶん、こいつかなり頻繁に食堂来てるね・・・)
そうでない限り、ここまでメニューに詳しくないはずだ。
順番待ちの際、にこにことメニューを読み上げる晴は小学生のようである。
というかこいつの頭の中が小学生だ。
やっと順番が来て食券を買い、
券と食べ物を交換してもらう為、再び並ぶ。
注文されたものを盛り付けるだけなのだが、
食券販売機に並ぶより時間が掛かった。
ぶっちゃけ、こういうのが面倒くさいので食堂は好かない。
折と晴がやっと食べ物にありついたのは食堂に来て15分後だった。
空腹時の15分はきつい。
「あー満腹満腹!」
「よかったね。」
「よくそれだけで足りるよな。」
「俺、少食だからね。てか晴が食いすぎなんだって。」
「早死にするぞ」
「医学的に関係ないよ」
「はっなにが医学的だ」
「どっちかっていうと少食より過食のほうが危ないんじゃない?健康的にね」
「あーはいはい。もういいよ」
「お、晴じゃん」
背後から声がして折は見上げるように振り返った。
(あ、紅城先輩。)
折も勿論、知っている。
女子の間でも男子の間でも有名だからだ。
女子では「かっこいい先輩」だろうけれど、
男子ではヤクザの息子だとか、
族だとかギャングだとかに入っている「怖い先輩」だった。
何故このような不良先輩と晴が知り合いなのか。
しかもかなり仲が良いと見える。
晴も不良と言うのだろうけれど、
こいつは族やギャングといったような集団でつるむのを嫌う。
もし晴が同じ族やギャングに入ったのならあり得るが、
そんな話は聞かされていない。
だったら一体、何故なのか。
「何食った?」
「俺ぇ?カレーライス。てか晴の友達?」
「ああ、同じクラスで一番仲良いやつ。」
「あ、折っす。」
「いーよいーよ敬語じゃなくて。晴の友達だしね」
「あ、はい」
「俺、紅城 流雨ね。ちなみに美化委員会の委員長」
「あー・・・だから接点あったんだ。」
「そうそう」
そう言ってニッコリと笑う流雨は、
人見知りをしない、ただのお人好しでなのだろうだけれど
どうしても折にはそうは思えなかった。
只者ではない。
たぶん、かなりの裏を持っているはずだ。
折もそういう人間な所為か、同じ匂いがする。
(厄介そうだな・・・要注意人物、と。)
「ねえ、5時限目サボらない?」
「俺は別に良いけど・・・折はどうする?」
「んー、じゃ俺も。」
「わかったよ。それじゃ後で会議室来てね。」
「おけ。」
またね、と流雨は
少し離れた所で待たしていた友達と食堂を出て行った。
「ねえ、会議室ってどこの?」
「特別校舎4階の一番奥の会議室だよ。」
「へえ。てかよく鍵持ってるね。」
「委員長になると会議室が一部屋もらえるんだってよ。」
(なるほどね。だから美化委員長か)
「あ、もう始まるじゃん。行こーぜ」
「うん」
「うわ、俺、教室に煙草忘れた・・・」
「会議室で吸えるの?」
「うん・・・折、持ってきた?」
「当たり前っしょ。」
「えー、じゃ俺、取りに行ってくるわ。悪ぃ折、先行ってて。」
「わかったよ。特別校舎の4階の一番奥の部屋だったよね?」
「そう。」
晴と別れて、折は特別校舎へ向かった。
特別校舎には美術室、音楽室、実験室などの部屋がある。
といってもそれらがあるのは主に1、2階で、
3、4階は委員会に割りふられる部屋や部活動で使用する自由室だ。
一番奥の部屋の戸の前まで来ると、
中からシュッと火を付ける音が聞こえた。
(先輩と二人っきりかよ・・・どうもああいうのは苦手・・・)
折は一呼吸置いた後、冷静な顔付きで戸を開けた。
「失礼しまーす」
「遅ーい。あれ、晴は?」
「煙草忘れたって教室に取りに行ったよ。」
「なにそれ。俺の煙草あげたのにー」
「あはは」
折は煙草を出して咥えると、
火を付けながら流雨の隣に座った。
「先輩、結構サボってるみたいだけどテストどうしてるの?」
「流雨でいいよ。俺、こうみえて学年トップなんだよ。」
「うそ。すごいね」
「でしょ。でも折には負けるよー」
「そんなことないって。俺、頭良くないからさ」
「どこがだよ、折もよくサボってる癖に学年4位じゃん。」
「よく知ってるね」
「それと4位なのはあまり目立ちたくないから?面倒だからか」
「は・・・・」
「そりゃそうだよね。3位以内に入ると生徒会とか委員会から推薦くるし厄介だもんね」
「ちょ・・・」
「まあそれもあるみたいだけど、どちらかっていうと浮きたくないのが理由でしょ?」
身体が、動かなかった。
というのも、流雨の言っている事が事実だったせいだ。
折は嘘を付ける性質であるし、鎌を掛けられているのならば
上手に嘘を付いて回避できたはずであるが。
流雨が鎌など掛けていないのだけは分かった。
ね、そうでしょ?とにこやかな笑みを見せる流雨は、
先程までの無垢な笑みではなく、
どこか追い討ちを掛けるような、強いるような挑発的な笑みだった。
こいつは分かっている。
俺の性格も、
たぶん今、俺が流雨の言っていることを認めてることも。
「びっくりした?俺さぁ将来、心理学のほうに進みたいんだよね。」
「・・・これだけの力あるなら絶対、大物になれるよ。」
「ありがとう。俺から言わしてみれば、折も侮れないけど。」
「そうでもないよ。」
「結構、俺と性格似てるんだよね。それに折は賢い。」
何されるかわからないね、とクスクス笑う流雨はどこまでも無邪気だった。
「なんか折とは良い友達になれそ。」
「そうだといいけどね。」
「酷いねぇ」
「てか晴、遅すぎでしょ」
「そういえばそうだね。ま、いっか。」
「あーあ」
「どうしたの?」
「なんでもないよ」
(この性格、死んでも隠し通すはずだったのに。)
折は短くなった煙草を思いっきり吸い込んだ。