SEI:SIDE


既に何回目かもわからない、電話を掛けた。
呼び出し音は鳴るのだが一向に持ち主が電話に出る様子がない。
玄関のチャイムを鳴らしてみるが、出てくる気配もない。
天が家にいるのはたしかであるが、
時間が早いせいかまだ両親は帰っていないようだ。
天が出てこなければどうしようがない。
その上、天の家の前でうろうろし出して1時間が経過しようとしていた。
そろそろ住民の視線が痛い。
何か勘違いされる前に撤退したほうがよさそうだ。
晴はもう一度チャイムを鳴らして出て来ないのを確認すると
再度、来た道を戻った。



(パニックになるのもしかたないか・・・)

あんな状況、耐えれるわけがないから。
たぶん、晴も折も、流雨も爽も疑っているだろう。
しかし流雨と爽を疑うのはおかしくない。
というか、普通にあの二人が仕組んだに違いないが。
けれども理由がない。
たしかに爽という男は格好良いのだろうが、
性格も根性も悪そうな顔をしている。
し、流雨はおちょくって遊んでいるとしか思えない。
天も厄介な奴を好きになったもんだ。



晴は駅に着くと、来た道とは逆を行く切符を買った。
丁度、後3、4分で発車の電車に乗る。

携帯を見るが、天からの連絡はない。

(結局、俺を頼っても信じてもないんだよな。しかたないか、所詮セフレだし・・・)




「あれ、晴!」

聞き慣れた声が、思考の迷宮に入りかけていた晴を引き戻した。
いつの間にか電車は発車していて、学校の近くの駅まで来ていた。

「折」

「ご苦労様だね。天はどうだった?」

「家に入れなかった・・・折もやっと補習終わったのか?」

「そ。さっき終わったとこだよ。」

「そうか・・・」

「まあ、そっとしておいてあげなよ。天には晴も俺も付いてるから大丈夫だって。」

「わかった・・・」

「ほら、元気出してよ。気持ち悪いって。」

「おい、気持ち悪いってどういうことだ。」

「てか家来る?どうせ暇でしょ。親居ないし俺も暇だし飯でも食ってけば?」

「いいのか?」

「いいよ。お金持ちのお坊ちゃまからしたら汚くて狭いけどね。」


こういう時こそ、友達のありがたさを知る。
高校生にもなると友達は友達でも"クラスメイト"というほど他人同然の友達と
"プライベートでも関われる友達"の差が出てくる。
誰でも赤の他人を家に入れるのは嫌だろう。
それに折角の休みというプライベートな時間を他人のために割きたくない。
そう考えると、折にとって晴はちゃんとした"友達"なんだと思う。




「ちゃんと道、覚えた?此処だからね。」

「なんとなく・・・へぇ、結構、良いマンションだな。」

「まあ、ね。親の仕事が"アレ"だから・・・。」

「?、両親、帰るの遅いんだな。」

「父親は離婚してるし、母親は夜勤だからね。」

「折、母子なのか?」

「うん。俺が小学4年の時に離婚した。」

「悪ぃな・・・」

「気にしないでよ。」


折は合鍵を出すと、部屋の鍵を開けた。

「げ、」

「どうした?てかすげー数の靴・・・」

しかも母親が履くとは考え難い靴ばかりだ。
姉か年が近い妹がいるのだろうか。


「あら?折ー!おかえりなさい!」

がばっと折に抱き付いた若い、女。
しかも二十歳すぎくらいで、かなりの美人だ。
こんな女性と同棲しているのか、こいつは。


「はいはい、ただいま。もうやめて」

「こっちの子、誰?折の友達?」

「そうだよ。同じクラスで仲良い奴。蒼園 晴。」

「あ、晴っす・・・」

じっと見られ、自分でも顔が熱くなるのがわかる。
こうやって見ると、更に美人だ。
これこそ大人の魅力というのだろう。


「へぇ。あんたが友達連れてくるなんて珍しいわね。」

「まあね。」

「でもよかったよ。母さんホッとしたわ。」


おい、今この女、何て言った?
自分のこと「母さん」とか言わなかったか?


「はいはい。そりゃよかったね。じゃ、母さんはあっち行っててよ。」

「相変わらず冷たいのね。母さんも一緒にお話したいわ。」

「今度ね、今度。今日は駄目。それに仕事あるでしょ?」

「わかったわ・・・ちゃんと飲み物出してあげるのよ。お菓子も。」

「はいはい」

自称「母さん」と名乗る女は、またね〜と寝室に入っていった。


「おい、ちょっとまて。」

「どうしたの?ああ、もしかして母さん?」

「・・・"母親"なのか・・・?」

だったらありえない。

「そうだよ。」

「まじか?!」

「うそついてどうすんのさ。」

はいはい座った座った、と晴はリビングのソファに座らされる。
グラスと数種類のペットボトルが置かれ、
数種類の菓子の袋が開けられた。


「それにしても若っけえな・・・いくつだよ?」

「34」

「は?じゃあ17の時の子?!」

「そうなるねぇ」

「すげーな・・・だから子供がこんなにもしっかりしてるのか。」

「たぶんそうだろうね。家事とかもほとんど俺がやるし。」

「まじで・・・」

晴は、ジュースを飲みながらポリポリと菓子を頬張る折を見つめた。


「折〜!じゃあ母さん仕事行ってくるからね!」

「はいよ。」

「夕食のお金、玄関に置いておくからね!」

「サンキュ。」

「晴くんもゆっくりしていってね!」

「あ、はい。」


そう言って仕事に出かけた折の母親を呆然と見つめた。
仕事というわりに、髪は豪華にセットされて
上品だが、露出したドレスを纏い
キレイにめかし込まれていた。

(もしかして・・・キャバ嬢?)


「見てわかったと思うけど・・・俺の親、水商売してんの。」

「あー・・・でもいいんじゃないか?優しそうだし若くてキレイだし。」

「そういうもん?」

「あくまで、俺からしたらね。」

「そっか。」

「まあな。」


「てか飯、食いにいこ。菓子はデザート。」

「おっけ。何食う?」

「うーん・・・一万置いていったから結構、良いの食べれるよ。」

「じゃピザかパスタにしよーぜ。」

「あーそうだね。そうしよ。」

「あー腹減った!」