SETSU:SIDE
珍しく今日はまだ、騒がしくて馬鹿なあいつが来ていない。
「折、おはよ〜。あれ、晴は?」
「おはよ。まだ来てないよ。」
「ふーん。方向同じじゃなかったっけ?」
「毎朝、電車で会うんだけどさ今日は会わなかった。」
「寝坊ね。きっと。」
「たぶんね。」
授業のチャイムが鳴り教師が来ると、
折と天は自分の席に着いた。
居たら居たで、鬱陶しいのだけど
居ないと寂しい気もする。
いや、きっと
毎日、馬鹿騒がしい奴といたから
感覚がおかしくなっているんだ。
サイレントにしてある携帯が机の中で光った。
(晴から)
『風邪ひいた。熱が39度ある・・・学校休むわ』
(風邪かよ・・・)
折は半ば呆れて小さく溜息を吐くと、
『ばーか。お大事にね』と返信した。
(この調子じゃたぶん明日も学校来れないな。)
天宛てのメールを作成する。
『晴、風邪だって』
送信すると、まもなくしてメールが来た。
『ばーか(笑)』
天のメールに折は小さく笑った。
『晴が風邪ひくとかね(笑)』
『馬鹿は風邪ひかないのにね(笑)』
『これで晴も馬鹿じゃないってことかな』
携帯から顔を上げると、
天と目が合ってお互い笑った。
てことは、今日は折と天の二人きりだということだ。
流雨にとっては絶好のチャンスだろう。
馬鹿な晴でも居るのと居ないのとでは、居ないとこちらが不利だ。
あんな馬鹿でも居れば何かしら役に立つ。
(とりあえず、天を一人にしないことだな・・・)
授業の終わりのチャイムが鳴って休み時間になると
折は天の前の席に座った。
「なんかああいう極端に五月蝿い奴が居なくなると寂しいわね。」
「居たら居たでうざいんだけどね」
「そういえば私、次の授業エスケープするから」
「は?またどうして・・・じゃ、俺も」
「爽が二人で話したいって・・・さっきメール来たの。」
「・・・爽が?」
「大事な話があるって・・・」
(あいつ等はアホか・・・?大事な話とか典型的すぎ・・・・)
「で、行くの・・・?」
「うん・・・」
「危ないんじゃない?」
「そうだけど・・・でも爽が流雨には言ってないし、二人だけの事だからって」
「・・・ッでも」
「大丈夫だよ、折。それに・・・忘れないで。私は爽の彼女だよ」
そう言って、天は笑った。
彼女の笑顔の中に、強さが見えた。
「・・・わかったよ。でも気を付けて。」
「ありがと。もしかしたら私達の事も解決するかもしれないしね。」
「そうだね・・・」
「じゃ、私そろそろ行くね。」
立ち上がって、
天は教室のドアの前で「行ってきます」と再び笑った。
折は消え入りそうな声で「行ってらっしゃい・・・」と笑った。
天の姿が見えなくなると、妙な胸騒ぎだけが残った。
授業が始まっても、上の空だった。
胸騒ぎと、感傷に浸る自分がいた。
俺は過保護すぎただろうか。
自分は天の"何でもない"
天と爽は付き合っているのだから、
天がどうしようと、俺が口出しできる権利はないのだ。
そもそも、俺は直接的に関係ない。
自分は"何か"にでもなったつもりでいたのか。
(ちょっと調子に乗りすぎたな・・・)
それに、天は強い。
自分が思っている以上に。
自分の心配なぞ、きっと迷惑にしかすぎない。
が、妙な胸騒ぎと不安が折を駆り立てた。
折だけは守りたい。
"また"笑顔が見れなくなるのは、耐えられない。
あの時みたいに―――
ガタリ、と大きな音を立てて立ち上がった。
クラス中の視線が折に集まる。
「ど、どうしたの?小碧君・・・?」
「すみません。ちょっと用事を思い出しました。」
「そ、そう・・・。じゃあその用事が終わったら戻ってきてね。」
「はい。ありがとうございます。」
教室を出ると、折は走り出した。
(くそッ!何処だ?!天!)